獅子センチュウの虫
たとえどんなに簡単な手術であったとしても、
自分の体にメスを入れられるというのは怖いものですよね。
「手術後の経過はどうですか?」
「はい、先生。お陰様でお腹の痛みは無くなりました。ただ、気になる事が二つあります」
「気になる事?何ですか?」
「ひとつは、お腹が、やたら鳴るようになったんです」
「ほう。もうひとつは?」
「手術の日以来、私のケータイが行方不明なんです」
・・・やはりお医者さんは、ちゃんと選ぶ事が大切なようですね。
生物の中には、そんじょそこらのお医者さん以上の働きをするようなものもいるようでしてね。
サバやアジに寄生する【アニサキス】や、人に寄生する【回虫】や【ギョウチュウ】といった、
【線虫】と言われる小さな生き物がいます。
線虫は犬と同程度の嗅覚受容体を持っていて、好きなにおいに集まり、
嫌いなにおいから逃げる習性があるんだそうですね。
そして事前の実験から、がん細胞のにおいを好む事が判ったなんて事がありました。
以前、研究チームが、健常者二百十八人、がん患者二十四人の尿を採取して、
実験皿の上に一滴ずつ垂らし、線虫の行動を調べたんですね。
結果、健常者二百七人と、 がん患者二十三人を正しく判定したそうですね。
がん患者をがんと診断できる確率は驚異の九十五・八%に達し、
がんの種類や進行度にかかわらず判別できたんですね。
まさに『センチュー・ベリーマッチ!』とお礼を言いたくなりますよ。
ちなみに血液を調べる腫瘍マーカーで、同じ患者らを検査した結果は、
十六~二十五%だったそうですね。
これは線虫の優秀さを褒める以前に、腫瘍マーカーの役立たず感をツッコむべきなんでしょうね。
ぶっちゃけ四、五人に一人しか当てられないんだったら、
ド素人が勘で『この人多分、がん』とか言っても、そのくらいの正解率は出そうですよね。
研究チームは、精度の向上などを進め実用化を目指したいとしているそうですから、
そうなれば早期のがんも発見でき、簡単で安く、がん診断が可能になりますね。
世の中には『悪い病気が見つかると嫌だから』という理由で、精密検査を拒む人がいますよね。
そういう人でも尿だったら、何とか採取できそうですよね。
無理矢理押さえつけて、強制的にオシッコをさせるわけですね。
「な、何をするんだよ!無理矢理オシッコを採取するなんてひどいじゃないか!
これは立派な傷害罪・・・いや、【膀胱罪】だ!」
「な~に、逮捕されたって、【シッコー猶予】がつくだろう」
なんてんで、こんなくだらないやり取りがされるかもしれませんね。
微笑亭さん太