アン凍る、アン凍る
それを布巾で拭く時、日本人は布巾をまず濡らして絞ってから拭くというのが、
昔はよく日本人の不思議として挙げられていたんですね。
水分を拭き取ろうとしてるのに、それをわざわざ濡らすというのは、
目的に対して逆行している感がありますが、実際木綿の布は、
湿っていた方が水をよく吸うというのを、昔の人たちは経験則で知っていたんでしょうね。
先人の知恵というのは、大したものですよね。
プラトンの弟子であり、
紀元前の哲学者として有名なアリストテレスと言えば、
その方面に興味のない方でも名前を知っている、歴史上の有名人ですよね。
ただ彼は『ウナギは泥から発生する』などという、
現代ではとても科学的とは言えない記述を残していたりするんですね。
もしもそれが本当だったら、うなぎ屋さんは、ちょっとした錬金術師みたいなものですよね。
そういった【イタい発言】の一つに数えられていたものに
『お湯を冷ますには温めろ』という言葉がありましてね。
『ちょっと言ってる意味が判らないんですけど』という感じで、
これは賢者の世迷言とされていたんですが、
一九六三年、タンザニアに住む十三歳のムペンパという少年が、
お湯の方が冷たい水よりも早く凍ることを発見し、学校で研究成果を発表したんですね。
始めは学校中の生徒と先生に笑われたんですが、
著名な物理学者がムペンバ君の主張が
正しかった事を証明すると、流れは一転しましてね。
熱い物の方が、冷たい物より早く凍る現象を【ムペンバ効果】と命名されるに至ったんですね。
「ムペンパ効果というのは、人間にも起こるからね」
「人間にも?どういう事?
「ほら、アツアツのカップルほど、すぐ冷めるだろ」
「なるほど・・・しかし、冷たい水よりもお湯の方が早く凍るという事は、
逆に言えば、冷たい水を凍らせた氷よりも、お湯を凍らせた氷を熱した方が、
早く沸騰するって事かな?」
「そうそう。だから別れた夫婦が何回も復縁したりするだろ?」
そんな【逆ムペンバ効果】というのもあるかもしれませんね。
「冷たい水よりもお湯の方が早く凍るってのは、どういう事なんだろうね?
「つまり何だろ、お湯は『俺は熱いんだから、早く凍らなきゃ!』って頑張るんだよ。
それに対して冷たい水は『俺、元々冷たいし、すぐ凍るから、
適当にやってりゃ大丈夫でしょう』と余裕かましてるうちに、
お湯に抜かされてしまうという事だな」
「なるほど~、そういう事か!」
この話を聞いたイソップが
【ウサギとカメ】という話を書いたという話がありましてね・・・真偽のほどは不明ですけどね。
微笑亭さん太