アントニオ命
その違いがあまり認識されていない言葉というのがあります。
【安楽死】と【尊厳死】という言葉なんかがそうですね。
本来は、医師が薬物を用いて人工的に命を縮めるのが【安楽死】で、
過剰な延命治療を差し控えて自然死を待つのが【尊厳死】なんですね。
以前米国で、脳腫瘍で余命わずかと宣告されていた二十九歳の女性が、
医師による処方薬を服用して死亡しましてね。
この女性が住んでいるオレゴン州では、医師が処方した薬を
患者自らが服用する尊厳死が認められているんですね。
これを日本でやったら、医師が【自殺幇助】の罪に問われてしまいますが、
日本でも尊厳死を巡る議論はあるんですね。
しかし反対が多いので、尊厳死が認められるまでには、かなり高いハードルがあるようですね。
その一方で日本は【自殺大国】なんという、不名誉な称号がついてましてね。
先進国の中でも、単位人口当たりの自殺件数が多いんだそうですね。
実際、十五歳から三十九歳までの死因の一位は【自殺】だと言いますから驚きですよ。
さらに四十歳から四十九歳でも死因の第二位が【自殺】ですので、
思春期の若者から働き盛りの世代までまんべんなく、
自殺を選択する人がいかに多いかが判ります。
病気などで、生きたくても生きられない人がいる中、これはちょっと悲しいデータですよね。
命というのは、たった一つしかないから尊いわけですが、
人が【スペアの命】というのを持てるようになったらいいですよね。
スペアがあれば、死んでも生き返る事が可能なわけです。
「スペアがあるからさ、とりあえず一回死んでみる?」
「そうだな~。何事も経験が大事だからな」
なんてんで、お試し的に死んでみたりするわけですね。
お客さんなんかが訪ねてきた時も、
「ご主人いらっしゃいますか?」
「今、死んじゃってるんですよね~」
「ああ、そうなんですか。いつ頃、生き返られますか?」
「明後日には蘇生すると思いますんで、また明後日来てください」
車を運転している時の心構えも変わってきますよ。
「おい、もっと飛ばせよ」
「ダメだよ。事故ったらどうすんだよ」
「大丈夫、大丈夫。俺まだ、スペアの命あるから」
「そりゃお前はいいけど、俺はもう、命ないんだよ。今死ぬとヤバイんだよね」
何だか、運転免許の点数みたいな会話してたりしましてね。
肉親が死んだ後の遺産相続なんかでも
「お母様が遺産として、命を二つ残されました」
「そうですか・・・母さん、ありがとう。
俺、そそっかしいからすぐ死んじゃうんだけど、これであと二回死ねるよ」
まさに【命の母】とはこの事ですよね。
微笑亭さん太