歯に衣着せぬ話
いつまでも美味しい食事を楽しみたいというのは誰もが思う事でしょうが、
そのためには健康的で丈夫な歯が必要不可欠ですよね。
人にとって【歯】が大切なのは、古の偉人にとっても同様のようですね。
『やせ蛙 負けるな一茶 これにあり』という句があまりにも有名な、
江戸時代後期の俳人【小林一茶】ですが、彼は晩年、歯が全て抜けてしまったようで、
歯が抜けた不自由さを『歯が抜けて あなた頼むも あもあみだ』という一句にしたためているんですね。
これは、歯が全部抜けてしまい心細くなったので、
『南無阿弥陀』と仏の慈悲にすがろうとしたんですが、
『あもあみだ』としか発音できないという、ちょっとネタ要素の入った句なんですね。
今なら入れ歯にする事も可能ですから、そうなってたら
『総入れ歯 取ってくれろと 泣く子かな』なんて句ができていたかもしれませんね。
人間の歯には【乳歯】と【永久歯】があり、抜け替わる事は言うまでもありません。
小さな子供がニッと笑った時に前歯が無かったりすると、
それはそれで可愛かったりしますよね。
ただなぜ人は幼児の歯が生えてきて、そして抜け替わるのかが不思議ですよね。
これはよくよく考えてみると、本当に変な事であり、面倒な事ですよ。
「人間って何で最初に乳歯が生えてくるんだろうね?乳歯なんて要らないだろ?」
「何言ってんだ、必要だよ。俺は乳歯が生えてる女の子にしか興味がないんだから」
こんな事言ってるおじさんには、絶対子供を近づけてはいけませんよね。
しかし最初に乳歯という【期間限定商品】みたいな歯が生えてくるから、
歯医者という、子供にとっては一種の【ホラースポット】に足を運ぶ回数も増える事になるわけです。
最初から永久歯が生えてこれば、手間が省けていいと思うんですが、そうはいかないようですね。
というのも、乳歯は小さくて数が少ないんですね。
なぜなら幼児の顎は小さくて、三十二本の大人の歯が収まりきらないからです。
もしも最初から大人の歯が生え揃ったとしたら、
顔の輪郭から口の両側だけが外へはみ出して、
漢字の【凸】みたいな顔になっちゃうかもしれません。
これは見た目が怖いですよね。
そのため、子供には小さめ歯が二十本、生後六ヶ月頃から生えるようになっていて、
二歳半頃には乳歯が生え揃うようになっているんですね。
しかも永久歯と同じように、乳歯もペアで生えてきます。
つまり、下顎から二本生えてきたら、もう二本の歯も上顎からすぐに生えてくるんですね。
そうする事で均等に噛む事ができる上、顎も均等に成長する事ができるという、
人の体というのは、実にうまくできているものですよね。
「乳歯が生えてくる理由って、子供の時はちゃんと歯磨きできなくて虫歯になりやすいから、
多少虫歯になっても大丈夫なように、神様が配慮してくれたんじゃないのかな」
「いやいや、そこまで配慮するなら、
最初から【虫歯にならない歯】をくれてもいいんじゃないの?」
「ダメダメ。そんなに頑丈だと、当人が死んだ後も分解されずに残るから、
どんどん世界に歯が増えていって・・・やがて人類は歯に征服される事になるぞ」
そんなSF映画みたいな話は、ありえないでしょうけどね。
微笑亭さん太