求む、窃盗犯!
「実はさ・・・彼女が会ってくれなくなっちゃったんだよね」
「へえ~そうなんだ。どうして?理由は?」
「それがよく判らないんだよね。
この間彼女が『私、ムソルグスキーの展覧会の絵が好きなんだ』って言ったので、
『あ~いいよね、ムソルグスキー。
色使いとか綺麗だし、絵のタッチもいいよね』って言ったら、彼女が黙っちゃって・・・
それ以来、会ってくれなくなっちゃったんだよ。
何がダメだったんだろうな?」
「・・・お前さ、知らなくて適当に話を合わせてただろ?
【展覧会の絵】って、曲の名前だからな」
やはり、知ったかぶりは良くないみたいですね。
絵が好きで、美術館や展覧会に足しげく行かれる方も多いですが、
中には変わったイベントもありましてね。
先日、品川区のギャラリーで開かれた展覧会、
来場者は二十四時間、ギャラリーの作品をいつでも自由に持ち帰ってもOKという、
非常に珍しい展覧会なんですね。
国内外で活躍するアーティストの作品で構成されたこの催しは、
ノーセキュリティで二十四時間、無人営業で開催されたんですね。
出品されたアーティストの作品は、来場者が自由に持ち帰る事ができる物として展示され、
公然と窃盗罪を許すというスタンスなんですね。
そもそもこの展覧会、何で開かれたのかというと、
『盗んでよい物として作品が展示される事により、ギャラリーや美術館という、
本来なら守られた展示空間との既存の関係性が壊された状況において、
アーティストはどのような作品を展示し、鑑賞者と作品の関係性はどうなるのか、
現代における芸術作品のあり様を、異なる角度からとらえ直す機会となる事』を
意図して開かれたんだそうでして・・・主催者の仰ってる事が今ひとつ判らないくらい、
芸術というのは、奥が深いですよね。
ウェブサイトには来場者に課せられたルールが記載されていて、
『盗む作品は、一組につき一点限りとさせていただきます(キャッツアイ様の場合は三人で一点のみ泥棒可)』とか
『アート泥棒される際は、近隣のご迷惑にならないよう静かに、マナーのある泥棒行為をお願いします』とか
『会場内の監視カメラより、インターネット上で中継、
録画された動画の公開をさせていただくことがありますので、
ご自身のプライバシーを守りたい方は、マスクや仮面を着用した上でご入場ください』といった、
なかなかお茶目なルールが設定されてるんですね。
「俺、盗めるアートの展覧会に行ってきたんだよ」
「へえ~そうなんだ。何を盗んできたの?」
「入場券売り場のレジ」
それはガチの泥棒ですけどね・・・この展覧会、
『全作品が盗まれ次第終了』という事だったんですが、
初日に全部盗まれて、翌日からネットで売られるなんて事にならなくてよかったですよね。
微笑亭さん太