掘り出し物の紛失
席を譲ったりするのは、なかなか勇気がいるものですよね。
「この間、満員電車に乗って座ってたら、小学生の男の子を連れたお母さんが乗ってきたんだよ。
だから『お子さんを座らせてあげてください』と言って、席を譲ってあげたんだよ」
「へえ~、いい事したね。感謝されたんじゃないの?」
「うん、お母さんが凄く感謝してくれて、気分が良かったんだけど、
その男の子が小さな声で母親に
『ねえママ、人って見かけによらないね』って言ってるのが聞こえちゃってさ・・・」
男の子は褒め言葉として言ったんでしょうが・・・ちょっと悲しいですよね。
これは実際にあった事だそうですが、
あるお父さんが幼稚園児くらいの息子さんと一緒に電車に乗っていると、
急に息子さんが大声で泣き始めたんですね。
「一体どうしたの!?」
「パパ~、鼻くそがない~!」
と泣き叫んだそうでしてね。
どうやら手に持っていた鼻くそを落としてしまったようで、
鼻くその紛失を嘆き悲しんでいたわけですね。
同じ車両に乗っていた女性やおじさんたちは、一生懸命笑いをこらえたり、
笑っているのをごまかそうとしていたそうですね。
電車の中で泣いている子供に対して不快感を露わにする人はよくいますが、
あまりにもバカバカしい理由に、その時ばかりは、
全くそんな雰囲気にはならなかったようですね。
それはそうでしょうね。
多分その場に居合わせた人たちは全員【鼻くそが無いという理由で泣く人】というのを
初めて見たでしょうからね。
でも彼にとっては、ためておいた鼻くそが行方不明になるというのは、
明日の朝刊の一面に載るレベルの大事件だったんでしょうね。
そんな息子さんに対して困ったお父さんは、
「鼻くそは、散歩に出かけたんだよ」と苦し紛れに答えると、
「えっ、鼻くそに手と足が生えて、扉から降りたの?」
この息子さんのカウンターの質問に、乗客の皆さん全員が、
こらえきれずに大爆笑したそうですが、乗ってた方々は、
下手な寄席に行くよりも笑わせてもらったでしょうね。
でも笑ってくれて良かったですよね。
ひょっとしたら、
「・・・ボク、君の大切な鼻くその消息が判ったよ」
と言って、引きつった笑顔で
スーツの袖にベッタリ付着した鼻くそを見せてくるおじさんがいたら、
お父さんは顔面蒼白になっちゃうでしょうからね。
あるいは、やはりそばにいたおじさんが、
「ボク、もっと大きいのをあげるよ」と言って、
自前の鼻くそを丸めて出してきたら、周りの笑い声は一瞬にして悲鳴に変わるでしょうからね。
微笑亭さん太