上下関係のしっかりした仕事
『昔あって、今ほとんどなくなってしまった職業』という言い方をしたりするんですが、
この幇間と同じく『絶滅危惧種』に指定されそうなのが
『エレベーターガール』と呼ばれる方々ですね。
独特の『上へまいりま~す』といった、
ゆっくりとした口調、高い声がトレードマークになってますが、
あれは乗客の話し声にまぎれないようにするためという、確固とした理由があるんですね。
日本で最初にエレベーターガールを置いたのは昭和四年、
松坂屋上野店のエレベーターだそうですね。
一九三〇年代は、手動でエレベーターを動かす運転手がいて、
『昇降機ガール』なんと呼ばれ、当時は千三百名が警視庁に届けられていたらしいですね。
専用の制服姿で優雅に客の案内をする姿は、
女性の憧れの職業のひとつで、男性から見ても、
『お嫁さんにしたい職業』だったそうですね。
何しろ全員が『箱入り娘』ですからね。
ただ『エレベーターガール』といっても『専門職』ではなく、
あくまでその施設の店員さんの『持ち場』の一つという事らしいですね。
密室内で長時間立ちっぱなしの仕事ですから、とてもストレスがたまりやすくて、
『チ~ン』なんて扉が開いたら、満面の笑みのお姉さんの後ろの壁が
ボコボコにヘコんでたりすると、ちょっと乗るのをためらっちゃったりしますよね。
エレベーターガールが目に見えて減ったのは、バブル以降でして、
世間から『過剰サービスだ』と批判を受け、真っ先に
経費削減の対象となっちゃったからなんですね。
完全に無くなってしまうのは寂しいですから、無くさないためにも、
彼女たちの価値を上げていけばいいわけですね。
扉が開いたら、エレベーターガールとジャンケンをして、勝ったら乗れるとかね。
「しまった~!また負けちゃったよ~。これで八回目のスルーだよ」
なんてんで、エレベーターガールの『ドヤ顔』を見ながら、全く乗れなかったりしてね。
あと、『ちょいワルエレベーターガール』なんてのが出てきましてね。
お客さんが乗ろうとすると『うぜえ~!』とか言いながら、乗車拒否したりするんですね。
乗ったお客さんに対しても、
「何階行くの?五階?アクセサリー売り場あんじゃん。
止めときなよ~。ここのアクセ売り場、サイテ~。マジありえないし。他の店行きなよ。
・・・アタシさ、次の階で降りるからさ、あとしくよろ~」
なんてんで、ろくに仕事しなかったりしてね。
若い女性ばかりというのも何ですから、高齢者の雇用という事にも役立つよう
『エレベーターお婆ちゃん』なんてのもいいですよね。
「あの、六階お願いします」
「・・・何です?」
「六階お願いします」
「・・・何です?」
「六階、パソコン売り場です」
「パソコン?いやいや、ワシはパソコンなんぞに用はない」
なんて降ろされちゃったりしてね。
これからは、エレベーターだけでなく、様々な空間に
『○○ガール』と呼ばれる人が登場してくるかもしれませんね。
便秘の人のトイレに付き添ってくれる『トイレガール』とかね。
「・・・また出そうにないですか?今日はもうひと踏ん張りしてみましょうよ。
きっと出ますってば。ほら、ヒーヒーフー!ヒーヒーフー!」
って出産みたくなってたりしてね。
それから、絶叫コースターに同乗してくれる、『ジェットコースターガール』とかね。
万が一、怖さのあまり失神してしまった場合には、
カツを入れてくれて、気がついたら、そっと替えのパンツを差し出してくれるという、
これはなかなかいいんじゃないでしょうか。
微笑亭さん太