火葬現実の世界
『旦那さんに乗ってほしい車は何ですか?』というアンケートを取ったんですね。
その結果、二十代の奥さんは【スポーツカー】、三十代は【高級外車】、
四十代は【ファミリーカー】、そして五十代以上の奥さんは
【霊柩車】と答えたそうでして・・・この調査結果は信頼できそうですよね。
若者の車離れが著しい昨今、
マイカーを持たない人も多いんですが、そんな中、どういうわけか
【宮型の霊柩車】を個人所有するのが流行っているそうでして、
ツイッターやインスタグラムなどのSNSには、
そのような写真が沢山アップされているようですね。
その背景にはここ数年、『死を連想させる』といった地域住民のクレームで、
火葬場に宮型霊柩車の出入りを禁じる自治体が増えてるという事が挙げられましてね。
そのため、一台一千万円以上という高級車が、
ネットオークションなどで数万円から数十万円の格安で手に入れる事が出来ちゃうんですね。
若者は宮型霊柩車を見た事がないため、死を連想せず、
ド派手でオシャレな車として買うわけで、
まさにインスタ映えする車という事になるわけですね。
・・・ただ、【いいね!】をする時には、親指を隠さなきゃいけないそうですけどね。
「私さ、【マルキュー】が大好きなのよね」
「マルキューって、渋谷の?」
「違うわよ。【マルキュー(〇九)】って言ったら【霊柩(〇九)車】じゃない」
なんてな会話をする若者たちが現れるようになるんじゃないですかね。
霊柩車がトレンドという事になれば、霊柩車でナンパというのも常識になってきましてね。
「カノジョ、この車でドライブいかない?」
「・・・バカじゃないの!?ありえない!」
こういう反応は【悪寒(お棺)が走る】というんでしょうね・・・
本来は亡骸を乗せる車でナンパしても【脈がない】という事になるんでしょうね。
霊柩車の運転手のお仕事をされている方々というのは、
なかなか高度な技術が要求されるようですね。
というのも、大事な御遺体を運ぶわけですから、発進や停止の際には
細心の注意を払わないといけないんですね。
制限速度や一時停止といった交通ルールを厳守するのは当然ですから、
間違っても黄信号で交差点に突っ込むような事はしませんが、
火葬場に時間通りに着く事が最も重要なんですね。
遅れるのがダメなのは言うまでもありませんが、早く着きすぎてもダメなんですね。
火葬場には火葬場のスケジュールがありますからね。
運転に関してだけではなく、霊柩車に同乗された御遺族に、
葬儀や火葬に関して聞かれる事が非常に多いので、
葬儀一般のルールについても勉強しておかなければならないんですね。
また、どれだけ天気が良くても
『気持ちが良い天気』とか『晴れて良かった』とか『絶好の』などの言い回しは、
悲しみにくれている御遺族に失礼にあたりますから、絶対に禁句ですね。
その他【続く】とか【追う】、【また】、【重ねて】など、
不幸が重なるような表現も使わないのがマナーなんですね。
助手席に乗った遺族の中には、
泣き続ける人や憔悴しきった表情で俯く人がいる一方で、
爆睡する人や携帯をいじりっぱなしの人、故人の悪口を言い続ける人、
香典の中身をチェックする人なんかもいるわけですが、一切ツッコんではいけないそうですね。
微笑亭さん太