力技のアンチエイジング
「えっ、小島か?お前、随分変わったな~」
てな感じで旧交を温める風景というのは、
成人式でよく見かけますよね。
成人式というのは新成人の目から見ると
『小中学校時代の同級生たちと久しぶりに再会する機会』
くらいの感覚だと思いますが、
成人してからかなりの年月が経ったオジサンたちが振り返ってみると、
『それを機に、二度と会う事のない人たちと最後に会う機会』
だった事がよく判るんですね。
再会を喜びあっていても、ほとんどの友達とは、
それ以来再び会う事がなくなりますからね。
次に会う時があるとすれば、定年直後に、
「・・・あ、小島?山下だけど、久しぶり。
あのさ、いい儲け話があるんだけど、
お前、退職金で出資してみないか?」
てな電話がかかってきて、のこのこ会いに行く時くらいなんですよね。
言うまでもありませんが、
若い時というのは二度と戻ってこないわけですね。
ところが世の中には、無理やり強引に若返ろうとする人がいるようですね。
オランダで『生年月日を二十年遅らせて若返らせてほしい』と
裁判所に訴え出た六十九歳の男性がいらっしゃいましてね。
言うまでもなく前例のない前代未聞の訴えなんですが、
この申し立てを行ったのは【セルフ・アウェアネス】という
【自己認識】のトレーニングを専門とするライフコーチの、
エミール・ラーテルバントさんという男性でしてね。
一九四九年三月十一日生まれで、七十歳の誕生日を控えた彼は法廷で、
自身の生年月日を二十年遅らせ、一九六九年三月十一日に変えることを
望んでいると訴えたんですね。
その理由としては、
ラーテルバントさんはシングルファーザーで再婚を望んでいるようなんですが、
高齢である事に対する差別を感じるからだという事なんですね。
具体的には、
恋人になる見込みのある相手に年齢を明かすという習慣で、
自分の行動が制限されていると仰ってるんですね。
そのため彼は今までに、
自ら基礎年金の受給停止も試みたんですが叶わなかったそうですね。
「自分から年金の受け取りを拒否するなんて、
本気で若返ろうとしてるのが判るよね」
「俺だったら、二十年歳を取れるよう訴えて、今すぐ年金もらうけどね」
ラーテルバントさんは『今時、性別変更だってできるのに、
若返る事ができないのはおかしい』と仰ってましたが、
結局その訴えは認めてもらえなかったようですね。
「裁判長、私の訴えは認めてもらえないんですか?」
「はい。原告の職業は自己認識のトレーニングを専門とするライフコーチでしたね?
ではまず、自分の年齢をちゃんと認識してください」
そう言われちゃったかもしれませんね。
仮に訴えが認められたとして、
二十歳若返って【四十九歳の男性】として若い恋人を見つけて結婚した後、
相手の女性が二十歳サバを読んでいた事が判ったとしても、
絶対文句は言えないでしょうね。
微笑亭さん太