無の境地
ネット通販というのは基本的に
品物の写真だけを見て買うわけですから、
実際に物が来てみたら、
自分の思っていたのとイメージが違ったり、
色やサイズが違ってるなんて事もありますからね。
もっとひどいのになると、
【現品限り!】なんて激安のパソコンの写真を上げていて、
注文してお金を払うと、そのパソコンの写真が
送られてくるだけなんて悪質なものもありますからね。
販売しているサイトの身元は確かなのか、
ちゃんと調べる事も大切ですよね。
昨年、オーストラリアの競売サイトに出された奇妙な一品が、
大きな注目を集めたなんて事がありました。
それは、真ん中に【The】とだけ書かれた紙の切れ端でしてね。
中学生でも知っている英語の冠詞ですが、
何に使えば良いのかはさっぱり見当がつきませんよね。
この紙は商品名【The】として、
シドニー在住の男性ユーザーが競売サイトに出品した物でして、
かつて友達がボールペンで書いた文字なんだそうですね。
商品説明の中で、用途について彼は、
『【The】という便利な言葉は、
数千もの文章で利用できる』と言っていて、
『メモ書きの一部や会話の中で提示したり、
装飾品として飾ったり、
シュノーケルの曇りを拭き取ったりも出来る』と、
若干意味不明な説明をしてましてね。
こんな物、さすがに買う人はいないだろうと思っていたら、
豪州や欧米メディアなどで
奇妙な一品として紹介されて評判となり、
彼が書いた単なる紙切れの価値は急上昇して、
入札価格が約三百八十万円にまでになったそうですから驚きですよね。
出品する方も出品する方ですが、
買う方も買う方でしてね。
世の中には物好きな方が沢山いらっしゃるんですね。
ですから、お金に困ってる方は、
紙に【その】とでも書いて出品してみたら、
高値で買ってくれる人が出てくるかもしれませんよね。
まさに、【苦しい時の紙頼み】ですよ。
ところが最近、それを上回るような商品が出品されましてね。
今、アマゾンで【無】というのが売り出されているそうですね。
無というくらいですから、
何も無いものを売っているという事になるわけでして。
この商品は【ナッシング】といって、
ナッシングと書かれたパッケージには、
丸いポコッとした膨らみがあるんですが、
そこには何も入ってないんですね。
この【何も入っていない部分】が
買えるという事なんだそうですね。
まあ、ジョークグッズである事は明らかなわけですが、
お値段の方は千四百円と結構高いんですね。
しかし、彼女へのプレゼントに買う人が出てくるかもしれませんね。
「これ、開けてみて」
「・・・え?何?・・・何も入ってないじゃな~い。
何よ、これ~!」
むくれる彼女に別の小箱を取り出しながら、
「ハハハ・・・ごめんごめん、本当はこっちさ」
「・・・まあ、素敵な指輪!結婚して~!」
確実にこうなると思うんですけどね。
そのうち、【ドーナツの穴】なんてのを
出品する人が出てきたりしましてね。
これも【無】と同じようなものですが、
間もなく【異物混入事件】が起こりましてね。
『先日発送した【ドーナツの穴】の中に
【ちくわの穴】が混入していました。
ここに深くお詫びを申し上げます』なんてんで、
出品者からの謝罪文が載るなんて事も、
あるんじゃないでしょうかね。
微笑亭さん太