所詮お前は、ワシの踏み台や!
以前は年に数回落語会が行われていたんですが、
お店の事情で少し遠ざかっていて、
これが3年ぶりに行われる落語会です。
私と鶴橋減滅渡(へるめっと)さんとの二人会でした。
この紋屋さんは飲食店でありながら、
紋章などを作ってくれるお店で、
豊川でも比較的山沿いにある事もあり、
峠の茶屋と呼ぶに相応しい、味わいある風情のお店です。
店内には薪ストーブが焚かれ囲炉裏があり、
その囲炉裏が高座代わりとなります。
…あ、もちろん座布団の上に人が座っている時には、
その下で火を焚いたりはしません。
山がすぐそばにある事もあって、以前は庭で
【モンちゃん】という名のメスのシカを飼ってらっしゃいました。
モンちゃんはどうなったのか気になったもんですから、女将さんに、
「モンちゃんはどうなったんですか?」
「とっくに山へ帰っちゃったわよ」
「あ、そうなんですか」
「それでね、この間、猟師の人たちの寄り合いがあってね…」
……その時点でもう、かなりの【悪い予感】がします。
「猟師さんの…ですか?」
「知り合いの猟師さんにモンちゃんの事聞いてみたら、
『知らないけど、今でも山の中で暮らしてるんじゃないの?』って」
「ああ、そうなんですか!よかった!」
「そしたら別の猟師さんが、『とっくに撃って食っちゃったよ』って」
……あ~……やっぱり……
「知り合いの猟師さんはその人に、
『空気読め!』みたいな視線を、しきりに送ってたけどね」
「まあ…そうなんでしょうね…」
「ところでさん太さん、シカ肉があるんだけど、
帰りにお土産で持っていってね」
……女将さん、この流れで、そのお土産は辛い…
もはやその肉が、どのシカの肉なんだか聞く勇気もありません。
確かモンちゃんには【モンジロウ】という子供がいたんですよね……
『改訂版・寿限無』(さん太作) 微笑亭さん太
『ちりとてちん』 鶴橋減滅渡
『熟女たちの宴』(さん太作) 微笑亭さん太
『高津の富』 鶴橋減滅渡
今年初めて減滅渡さんと顔を合わせたんですが、
「ワシな、今日が今年の初高座やねん」
「そうなんですか」
「今年を占う意味でも、今日は頑張らんとな~」
気合の入るヘルさん。
私がトップで出て、
その後にヘルさんが上がったわけですが、お囃子の途中で、
ドンガラガッチャン!!!!!!!
物凄い爆音が。
明らかに【何かの崩壊】を告げる音です。
見ると、高座近辺に、ヘルさんの姿がありません。
次の瞬間、お客さんたちが慌てて高座に駆け寄り、
囲炉裏高座の真後ろに倒れこんでいるヘルさんが、助け起こされました。
その瞬間を見てなかったので、何が起こったのか判らなかったんですが、
踏み台にしていた木の板が、ヘルさんが足をかけた途端に真っ二つに割れ、
そのままヘッドスライディングの如く、倒れてしまったのです。
多少のコケ方だったら、つかみネタとして美味しいところですが、
頬を打って腫れ、脛には台の跡がクッキリとつき、
流血もしている状況では、とてもネタの範疇を越えています。
お客さんもドン引きするレベルです。
「だ、大丈夫ですか、ヘルさん!?」
あまりの事に、高座を降りた私も駆け寄りました。
「だ、大丈夫や…すまんのう…」
百戦錬磨の営業慣れ、滅多な事では動揺しないヘルさんが、
明らかに動揺していました。
あんなに動揺したヘルさんの顔を見たのは、
2回目の離婚が決定的になったという報告を受けた時以来です(笑)
それでも気丈に高座に上がろうとするヘルさんに、
「さあ!早く、これを食べなさい!」
グルコサミン入りのサプリメントを渡す一番前のお客さん。
…えっ、なぜこのタイミングで?
グルコサミンは即効性がないにもかかわらず、です。
「い、いや、すんまへんな…」
仕方なくグルコサミンを口に入れるヘルさん。
これから喋らなきゃいけないのに、
完全に、動揺に追い討ちをかけられてしまいました。
多少の怪我は負ったものの、
何とか高座を終え下りてきたヘルさんに、
「どうでしたか、高座の出来は?」
「コケたとこが、ウケのピークやったな…」
…お疲れ様でした。

でも、顔を打ったものの、大怪我にならなくてよかったですよ。
やはり、いついかなる時も安全確保のため、
頭には【ヘルメット】が必要だという教訓なんでしょうね。
ヘルさんの今年一年は、
こんな【惨劇】と共に幕を開けたのでした。
微笑亭さん太