公園盛衰記
『公園デビュー』という言葉がありましてね。
公園デビューというのは、小さなお子さんを持つ母親が、
初めて子供を連れて公園に行く事で、
子供が1歳になったあたりで行われることが多いんですね。
公園デビューの目的というのは、子供が他の子の仲間入りする事と、
母親が他の母親と交流を持つという二つの目的がありましてね。
特に後者は、子育ての情報交換や
母親同士で井戸端会をする事による育児ストレス、
家事ストレスの発散として大きな役割を持っているんですね。
こうした理由から、
育児の重要なポイントのひとつとされるようになった公園デビューなんですが、
我が子が他の子供と馴染めなかったり、
母親同士がしっくりいかないなどの理由で失敗する事も多いんですね。
安住の地となるより良い場所を求めて公園を転々とする、
遊牧民みたいな親子もいるそうでして、
ホームレスでさえ公園にいるのに、
普通の親子が公園にいる場所がないというのは、皮肉な話ですよね。
ところが公園デビューという言葉が全盛期の頃は、
仲間に入る苦労などが育児雑誌などで盛んに語られていたんですが、
その後、公園の利用者数というのが徐々に減っていきましてね。
というのも公園に代わる存在として、自治体が設けている、
子育て広場などの室内施設が各地に増えたからなんですね。
こういう施設には常駐のスタッフがいるので、
その仲立ちで親同士が知り合えるんですね。
ですから公園よりも気遣いが少ないという事で非常に好評なんですね。
その上ネット全盛の時代ですから、
仲間との繋がりをネットに求める人が多いんですね。
今年4月に行った母親千人への調査では、
『仲間とのコミュニケーションの場は?』という質問に
『フェイスブックなどネットのやりとり』と答えた方が70%と最も多く、
『近所の公園』と答えたのは、僅か9%しかいなかったそうですね。
公園の利用価値がなくなれば、どんどんと無くなっていくでしょうから、
そのうち公園自体を見た事がない、
『公園を知らない子供たち』なんてのが出てきましてね。
そういう世代が成長して子供を持つようになると、
間違った情報が伝わってたりしましてね。
「美佐ちゃん、ここが公園というところよ。見た事ないでしょう?」
「うん、初めて!…ママ、あの階段がついてる遊具は何?」
「あれはね【すべり台】と言うのよ」
「ふ~ん。どうやって遊ぶの?」
「あの上に上がってギャグを言って、誰も笑わなかったらすべる事が出来るのよ」
「へえ~、そうなんだ~…あれは?」
「あれは【ブランコ】と言って、リストラされたんだけど、
奥さんにその事を言い出せないサラリーマンが、一日時間をつぶすための遊具よ」
「あんまり面白くなさそうだね。…あれは?」
「あれは【シーソー】と言って、
友達が最低一人はいないと一生遊べないという、恐ろしい遊具よ」
「それは辛いね~。…そこには砂がいっぱいあるね」
「あれは【砂場】よ。子供たち同士が、あそこで遊ぶ権利を巡って争って、
負けた方が泣きながら、ビニール袋に砂を詰めて持ち帰るという遊び場よ」
なんてんで、妙な勘違い情報が語り継がれてしまうかもしれませんね。
微笑亭さん太