果たして、死神の本音はどこにあるのか?
アマプロを問わず、実に多くの噺家さんが手がけている大ネタです。
途中、色々とアレンジがしやすい上、
この噺ほどオリジナルのサゲが存在するネタは
他にないのではないかというくらい、
演者の工夫が入る率が高い噺だと思います。
私も好きなネタのひとつではありますが、
その一方で、『死神』には数々の疑問を持っています。
まず最初の疑問は、
『死神は、なぜ主人公の男を選んだか?』という事ですね。
主人公の男は、はっきり言って【ダメ人間】です。
そんな男に、死神退治の仕方を簡単に教えているのです。
死神退治の方法といえば、
恐らく死神業界でもトップシークレットだと思うのですが、
それをよりによって、なぜ主人公に教えたのかという事が疑問です。
他に沢山いるだろう、と。
と同時に『男に何をさせたかったか?』というのも疑問ですね。
死神を退治できる医者として活躍させても、
これといって死神自身に何のメリットもないと思うんですよね。
男がどう振る舞うのが死神にとって理想だったのかが、皆目判りません。
そしてその後、布団をひっくり返す事により、
大店の主の命を救う事になるわけですが、
この時退治されてしまうのが、最初に出会った死神なんですよね。
この時『なぜ死神は男に声をかけなかったか?』というのも疑問ですね。
再び金銭的に追い詰められていた男が、
よからぬ事を画策する可能性が十分ある事は、
死神であれば予測がついたはずです。
『妙な事はするんじゃねえぞ』と釘を刺す事はできたはずなのに、
黙っていてしなかった事も、かなりの疑問です。
そして噺のクライマックスである洞窟へと男を連れていくわけですが、
この時点で、男の寿命はまさに風前の灯だったわけですから、
頭の方に死神がついていなければならないはずなのに、
それがいない事も疑問です。
そして寿命のロウソクを男に見せるわけですが、
ここへ連れていった死神の目的も判りません。
『男を救いたかったのかどうか?』という疑問ですね。
洞窟内での死神の言動を見ていると、
熱心に助けたいとは思ってない感じに思えます。
だとしたら、洞窟なんかに連れていかず、
放っておけばいいはずなんですが…最初から最後まで、
様々な局面での死神の本音が非常に判りにくい噺に思えます。
しかし、私にとって最大の疑問は、
途中、男に命を救われる大店の主に関してです。
主の命を助けてほしいと懇願する番頭さんが、
「旦那様の寿命を3日延ばして下さいましたら、1万両差し上げます」
てな事を言いますが(金額は演者によって違いますが)
3日の延命で1万両払うほど、お店にとってメリットのある状況というのは、
一体どういう状況なのかというのが非常に疑問ですね。
『たとえば』でも、そんなシチュエーションが浮かばないんですが…
答えられる方、いらっしゃいますかね?(笑)
まあ、でもそういった疑問を差っ引いても、
非常に魅力的な噺である事は確かですよね。
微笑亭さん太