私の不得意の致すところで…
演りやすい人物と演りにくい人物はあると思います。
その噺家さんが得意な人物、不得意な人物という事になりますが、
これはどんなにうまい方でもあるでしょうね。
ネタの好き嫌いとは、また異なる部分があり
『このネタは好きだけど、武士を演るのが苦手だから自分では演らない』
なんという事もあるでしょうね。
落語を始めた当初、私は『与太郎』が苦手でした。
これは落研時代の先輩たちから
『与太郎は難しい』という情報を刷り込まれていたせいもあると思います。
確かに与太郎さんの『雛型』というのは、
落語の典型的な登場人物の中でも、多岐に渡っている気はします。
いわゆる『愚かな与太郎』を演る方がいるかと思えば
『子供のような与太郎』を演る方もいますし、
どこか『哲学者の風情をまとった与太郎』なんて方もいます。
実際、落研の同級生で、与太郎ネタで苦労している人もいましたので、
自分は『さわらぬ神に祟りなし』とばかりに、
近づかないようにしようと思ってました。
初めて与太郎を演ったのは『大工調べ』だったんですが、
その後『金明竹』『厄払い』『かぼちゃ屋』など、
何本か与太郎噺を演りました。
演ってみるとなかなか楽しくて、今は苦手意識はありませんね。
それから与太郎と並んで苦手だったのが『女性』でした。
長屋のおかみさんタイプはいいんですが、
『花魁』だとか『お妾さん』だとか、
女性の部分を前面に出したキャラが苦手でしたね。
人生経験のない落研部員のさん太君には、
どう演っていいのか判らなかったんでしょうね~。
それが今では、女性を演るのが、むしろ好きになってしまいましたね。
…全然、『人生経験』は積んでないんですけどね(笑)
古典でも『紙入れ』『星野屋』『辰巳の辻占』『三枚起請』なんかを演りますし、
自作『熟女たちの宴』に出てくる
『妙齢のおばさま』なんというのは『大好物』です(笑)
年齢を重ねていっても女性の部分を忘れないおばさま方は、
凄く可愛く感じるんですよね。
ネタの中では年齢イジリみたいな事で笑いを取ってはいますが、
ここに登場するおばさま方は、
今でも『女性』であると思って演じています。
演っていて、とても楽しいですね。
こんな風に価値観が180度変わるとは夢にも思いませんでしたが、
これからも自分の年齢の推移と共に、
得意不得意な人物が変化していくかもしれませんね。
微笑亭さん太