考察 『猫の皿』

私は大雑把な性格なので、あまり細かい事は気にしないんですが、
落語を聞いていて、細かい事が妙に気になるなんて事があります。


古典落語に『猫の皿』という噺があります。
元々は小噺だという事もあって、
あっさり演れば、5、6分で終わってしまうような短い噺ですが、
ポピュラーな噺で、演じ手も多い佳作です。


『猫の皿』は、
道具屋の男が、とある田舎の茶店に立ち寄るところから始まります。
お爺さんがひとりでのんびりやっている茶店で、
その男がお茶を飲みながら休息していると、
縁台の下で、猫が一生懸命エサを食べているのが目に入ります。


猫嫌いの男でしたが、猫がエサを食べている器を見てビックリ。
それは『高麗の梅鉢』という高価な茶碗で、
捨て値で売っても、三百両はしようという代物です。


恐らくは、お爺さんがその価値を知らずに
猫のエサ入れに使っているのだと踏んだ男は、一計を案じます。
奥から出てきたお爺さんに『猫を三両で売ってくれ』と持ちかけ、
お爺さんは、そんな破格の話にびっくりしながらも了承します。


男は『ついでに、エサ入れに使ってる、その器もくれ』と頼みますが、
お爺さんは、かたくなに拒否します。
男が理由を尋ねると、『それは高麗の梅鉢という高い物なので譲れない』と。


騙し取る事に失敗した男が腹を立てながら、
「じゃあ何故そんな高い器で、猫にエサを食わせてるんだよ!?」
「ええ、この器で猫にエサを食わせておきますと、
不思議な事に時々、猫が三両で売れるんでございます」


この噺の結論は
『器を騙し取ろうと企んだ男が、一枚上手の腹黒いお爺さんの
【爺さんトラップ】にはまってしまって残念でした』

みたいな感じで結論づけられると思うんですが、
果たしてそうなんでしょうか?


この結論に到達するためには、
『お爺さんが、全てを承知の上でやっていた』というのが大前提となります。
本当にお爺さんは『確信犯』だったのかどうか、
それを一つ一つ、検証してみます。


お爺さんが、自分の持っている器が『高麗の梅鉢』であり、
非常に高価な物だという認識を持っていたのは間違いありません。
しかしその器を『エサ』にして、二束三文の野良猫を三両で売るという
『悪徳商法』を重ねていたかについては疑問が残ります。


まず第一に、そんな物でエサを食わせていたら、
価値を知っている人間に盗まれる危険性が大です。
この主人公の男は計略で騙し取ろうとしていましたが、
持ち逃げしたってよかったわけで、そういう危険性は常にあるわけです。


そして陶器の器ですから、割れる心配があります。
猫のエサの奪い合いで三百両がパーという可能性は
盗難の危険以上にあると思います。
お爺さん自身が、誤って蹴飛ばして割ってしまう可能性だってあります。


つまり、
『猫の餌入れとして高麗の梅鉢をキープしておく状況』というのは、
かなりリスキーな事だと言わざるをえません。
猫が三両で売れる事を期待するより、さっさと器を三百両で売ってしまった方が、
安全かつ合理的なのは間違いありません。


それでもなお、猫のエサ入れに使っているというのは、
案外このお爺さんは、『判ってない部分』があるのではないかと思います。
高い器だから、人にあげちゃったりはできないけど、
それを猫のエサ入れに使っていると、猫が三両で売れる理由について、
100%自覚していない気がするのです。


要するに、
『高麗の梅鉢を猫のエサ入れに使って、儲けてやろう!』
と企んでいるのではなく、
『よく判らないけど、何か猫が三両で売れるから、このままにしておこうか…』
その程度の認識ではなかったかと思うのです。
決して『確信犯』ではないのではないかと…。


この噺は、お爺さんが『有罪』か『無罪』かで考えると
『故意犯』であり『有罪』であると思われるような演じ方になると思うんですが、
私は『過失』の部分が大きく『ほぼ無罪』ではないのかと考えます。


『猫の皿』を知っている方も、知らない方も、
『お爺さんの罪』に関して、どう思われるのでしょうかね?


微笑亭さん太
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非公開コメント

盗んで逃げればいいのに、とは思ってました
他にも気になる噺はありますよね、病人の足下の死神は何をしてんだろう?とか

Re: タイトルなし

八橋さん、ありがとうございます。

> 他にも気になる噺はありますよね、病人の足下の死神は何をしてんだろう?とか

これは、目からウロコでしたね。
言われてみたらその通り、何してんでしょうかね?
死神界における『イエローカード的役割』でしょうか?
今はとりあえずいいけど、次は頭の方に座るぞ、みたいな?

うまいオチですね

オチが見事で面白いですね。お爺さんは確信犯だと思います。でも悪徳商法にはならないような。…落語は、人間関係や時代の雰囲気を味わえれば良いのかなと思います。「愛宕山」も、これは有り得ないなぁと思いました。しかし、ある程度は筋が通っていないと不満を感じますよね。

Re: うまいオチですね

カルボナーレさん、ありがとうございます。

> オチが見事で面白いですね。
ありがとうございます…って、私が考えたわけじゃありませんが(笑)

落語には辻褄の合わない噺が沢山あります。
しかしそれを、聞いてるお客さんに感じさせないよう
うまく騙すのが、噺家の腕の見せ所という感じですね。

こんなのはどうでしょう?

はじめまして。
落語について調べていて辿り着きました。数年前に書かれた記事に恐縮ですが、コメントさせていただきます。

このお噺が面白いのは、井戸の茶碗や火焔太鼓と違って、きちんとした目利きが「猫の皿」を鑑定したわけではなく、
この皿が高麗の梅鉢だというのは、旅の道具屋自身の見立てと爺さんの自己申告による情報だけ。
つまり、真贋はよくわからないところだと思うのです。

たとえば、爺さんは5両でそこそこ良く出来た贋作を手に入れました。
しかし、これを磨いて箱に入れ、100両で他人に売りつけようとすれば、当然、慎重に目利きされてアラがわかります。
仮に首尾よく売れたとしても、いずれ騙されたと気付いた相手には大きな恨みを買うに違いありません。

では、庭先で猫の餌を入れてぞんざいに扱っていたらどうでしょう。
小汚い状態では細かなアラまでは目立ちませんし、そもそも道具屋は爺さんを出し抜いてやろうと思っているので、皿を手に取ってまじまじと観察するわけにもいきません。
遠目に「たぶん、真作だろう」と見当をつけるしかない。
こうして、騙されやすい状況が組み立てられているのです。

欲に目がくらんで爺さんのトラップに引っ掛かっても、3両なら笑い話、道具屋としての社会勉強で済む範囲。大きな恨みにはなりません。
爺さんは、猫に皿を壊されても、まぁ道楽のうち。皿を盗まれても、あとで贋作と気付いてがっかりする泥棒のマヌケ面を想像すれば、十分、元は取れるところです。

(…というには若干、3両が大金すぎるような気もしますが、幕末から明治初頭くらいの貨幣価値であればギリギリ納得できます)

といった感じで。
腹黒く儲けてやろうというよりは、罪のないイタズラのために手間暇を惜しまない「かりあげ君」のような爺さんを勝手に思い描いておりました。

Re: こんなのはどうでしょう?

VORYさん、ありがとうございます。

素晴らしい発想ですね。
これを元に、【新・猫の皿】という創作落語を
一本書かれたらいかがでしょうか?


> はじめまして。
> 落語について調べていて辿り着きました。数年前に書かれた記事に恐縮ですが、コメントさせていただきます。
>
> このお噺が面白いのは、井戸の茶碗や火焔太鼓と違って、きちんとした目利きが「猫の皿」を鑑定したわけではなく、
> この皿が高麗の梅鉢だというのは、旅の道具屋自身の見立てと爺さんの自己申告による情報だけ。
> つまり、真贋はよくわからないところだと思うのです。
>
> たとえば、爺さんは5両でそこそこ良く出来た贋作を手に入れました。
> しかし、これを磨いて箱に入れ、100両で他人に売りつけようとすれば、当然、慎重に目利きされてアラがわかります。
> 仮に首尾よく売れたとしても、いずれ騙されたと気付いた相手には大きな恨みを買うに違いありません。
>
> では、庭先で猫の餌を入れてぞんざいに扱っていたらどうでしょう。
> 小汚い状態では細かなアラまでは目立ちませんし、そもそも道具屋は爺さんを出し抜いてやろうと思っているので、皿を手に取ってまじまじと観察するわけにもいきません。
> 遠目に「たぶん、真作だろう」と見当をつけるしかない。
> こうして、騙されやすい状況が組み立てられているのです。
>
> 欲に目がくらんで爺さんのトラップに引っ掛かっても、3両なら笑い話、道具屋としての社会勉強で済む範囲。大きな恨みにはなりません。
> 爺さんは、猫に皿を壊されても、まぁ道楽のうち。皿を盗まれても、あとで贋作と気付いてがっかりする泥棒のマヌケ面を想像すれば、十分、元は取れるところです。
>
> (…というには若干、3両が大金すぎるような気もしますが、幕末から明治初頭くらいの貨幣価値であればギリギリ納得できます)
>
> といった感じで。
> 腹黒く儲けてやろうというよりは、罪のないイタズラのために手間暇を惜しまない「かりあげ君」のような爺さんを勝手に思い描いておりました。
微笑亭さん太 プロフィール

微笑亭 さん太

Author:微笑亭 さん太
愛知県豊田市在住
豊橋落語天狗連所属

公演依頼される方は、
090-8133-6921
にお電話下さるか、
hohoemiteisanta@yahoo.co.jp
あるいは、
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アマチュア落語家として高座に上がる一方、創作落語を執筆し、自ら演じたり、プロの師匠方にも提供しています。寄席、イベント等に呼んでいただければ、喜んで駆けつけますので、よろしくお願い致します。

『悪質商法撃退落語』『振り込め詐欺防止落語』『認知症落語』『納税推奨落語』『男女共同参画落語』などの、特定のテーマの落語口演も致します!

また、イベントの司会、台本や原稿等の執筆依頼も受け付けておりますので、お気軽に御連絡下さい。


●エフエムとよた
【ラブィート演芸 楽市・落語】パーソナリティ
日曜日午後6時~6時半(隔週担当)放送中!


《受賞歴》
平成16年 『六人の会』主催 
第1回全国落語台本コンクール
最優秀賞

平成20年 落語協会主催
落語台本コンクール
佳作

平成21年 国立演芸場主催
漫才・コント台本コンクール
最優秀賞

平成21年 池田市主催
社会人落語日本一決定戦
3位入賞

平成22年 池田市主催
社会人落語日本一決定戦
奨励賞受賞

平成24年 落語協会主催
落語台本コンクール
優秀賞

平成24年 上方落語協会主催
落語台本コンクール
佳作

平成25年 池田市主催
社会人落語日本一決定戦
藤本義一賞受賞

平成25年 上方落語協会主催
落語台本コンクール
佳作(2期連続)

平成27年 落語協会主催
落語台本コンクール
最優秀賞

平成28年 落語協会主催
落語台本コンクール
優秀賞(2期連続)









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