笑ってはいけない高座
『幸田町社会福祉大会』というイベントにて、一席演ってきました。
幸田町民会館には先月も『こうた寄席』でお邪魔していて、
9月には大草のお寺でも落語を演ってますので、
3ヶ月連続、幸田町で落語を演らせてもらうわけです。
『こうた寄席』も6年続いてますし、
私にとって、非常に御縁のある町となりました。
会場に入ると、
いつも『こうた寄席』をやっている『あじさいホール』は
『昭和歌謡・歌声サロン』なる年配の方々の催しをやっていて、
初めて2階にある『つばきホール』に入りました。
『あじさいホール』よりも大きい会場ですが、
『つばきホール』と言っても、よだれにまみれたホールではありません。
このイベントは、福祉活動をされている方々や、
白寿や米寿を迎えられたご長寿の方々をお祝いする催しで、
私は表彰式の後のアトラクションとして、落語を演りました。
白寿や米寿の方だけではなく、
金婚式やダイヤモンド婚を迎えられたご夫婦も表彰されたんですが、
50年、60年と仲睦まじくやってらっしゃるというのは
本当に凄い事ですよね。
…私の知り合いで3回結婚されてる方がいますが、
その方に爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいです(…じゃかあしいわ!)
表彰式の後、
私の持ち時間は20分程度という事で、高座に上がりました。
お客さんは300人近くいたとの事ですが、
かなりのご高齢とはいえ、元気な方ばかりですから、
普通の寄席のような良い反応をしてくれました。
ここのホールは客席に傾斜がついていて、
後ろに行くほど、舞台を見下ろすような感じになります。
私が座布団に座り喋り始めてすぐ、
中間地点の一番上手側あたりに座っていたお婆ちゃんが、
下手方向に向かって、中間地点にある通路を移動し始めました。
トイレに行こうとされたようなのですが、
トイレは下手のドアを出た所にあるので、
当然、会場の真ん中を横切るような形になります。
物凄く腰の曲がったお婆ちゃんで、足どりも物凄くゆっくりなんですね。
高座の私には、超スローペースで横切っていく
腰の曲がったお婆ちゃんの姿が、よ~く見えています。
そしてお婆ちゃんの上には、客席が沢山あるわけです。
その様子を見ていて、『何かに似てるな~』と思っていたんですが、
『…あ、そうだ!背中に背負ったカゴで、
落ちてくるリンゴをキャッチするゲームの画面に似てる!』と気付きました。
腰の曲がったお婆ちゃんが横に移動する姿が、
カゴを背負ってリンゴをキャッチしようとするキャラに酷似しているのです。
そう思うと、お婆ちゃんの上にパラパラと座っているお客さんをつなぐと、
落ちてくるリンゴの軌跡に思えてなりません。
『…ダメだ、何か笑っちゃいそう…』落語を演りながら、
全く別の事で笑いそうになっている私。
これはマズいと思っていたら、やっとお婆ちゃんがドアに辿りついて
外へ出たので、何とか笑わずに済みました。
その後、高座の方は自分のペースで出来ていたんですが、
数分後、お婆ちゃんが戻ってきました。
まさかの【ステージ2】突入!(笑)
またお婆ちゃんは、
ゆっくりゆっくり下手側から上手側に戻ってきましたが、
席に着いた時には、私の落語はサゲ前でした。
要するに私の持ち時間中、
お婆ちゃんはトイレの往復だけで終わってしまったわけです(笑)
まあ、ご高齢なんだから、それも仕方がないな~と思っていたんですが、
そのお婆ちゃんが席に座った途端、その前にいたお婆ちゃんが、
同じルートでトイレに行こうと移動し始めたのです。
【マリオお婆ちゃん】が終わると、
今度は【ルイージお婆ちゃん】の出番みたいな感じになってます(笑)
これはヤバかったですね。
本当に笑いそうになりました。
それでも無事に終わり、
着替えを済ませ、帰ろうと会場の外へ出ました。
車に向かって歩いていると、
ちょうど聞いていたお客さんたちも帰られるところでした。
ひとりの年配女性が、私に気付かれたようで、
「…さっき、落語を演られていた方でしょう?」
「あ、そうです」
「とても良かったわよ~」
「ありがとうございます」
すると、その方の後ろから、また別の年配女性が近づいてこられて、
「…今、出られてた方でしょう?」
「そうです」
「とても良かったわよ~」
「ありがとうございます」
「いい声してらっしゃるわよね」
「そう…ですか?」
「あなた、【歌声サロン】で歌ってた方ですよね?」
……私は誰に間違えられたんでしょうかね~?
幸田町民は、愛すべき方が多いですね。
微笑亭さん太